トリプラノール|最強の抗うつ薬

 

 抗うつ薬中最強の効き目を誇る薬である。が、逆に副作用も最強であることから、医者が最初からこの薬を出すケ-スはほとんどない。

 ではどんな副作用が出るのか?

 まず第一に「抗コリン作用」による副作用がある。

 抗うつ薬セロトニンノルアドレナリンに対して作用すると述べたが、ほかにも抗うつ薬はいろいろなものに作用する。中でも3環系抗うつ薬アセチルコリン受容体というものに結びつき、悪いことにその結果、重大な副作用を引き起こしてしまう。アセチルコリンといってもピンとこないかもしれないが、たとえばタバコの二コチンは最も身近なアセチルコリン受容体に作用する薬物だ。抗うつ薬の成分がアセチルコリン受容体に結びつくことで、心臓の動きの抑制、骨格筋の収縮、内臓の筋肉の収縮、などの作用が生じてしまう。より具体的には、腸の働きを高める結果、大腸で水分が過剰に吸収されてしまい便の水気がなくなり便秘になる。ほかにも妙に口が渇いてしまったり、かすみ目、排尿困難といった体内の水気がなくなってしまうような副作用が現れる。これが抗コリン作用と呼ばれる副作用である。

 たとえば前立腺肥大などで尿切れの悪い人にこの副作用が出ると、おしつこが出ないという状況に陥ってしまう。そして3環系抗うつ薬の中でもとくにトリブタノールは、この抗コリン作用がもっとも強く出る抗うつ薬とされる。

 第2に「抗ヒスタミン作用」による副作用がある。

 世界初の3環系抗うつ薬トフラニールの発見に抗ヒスタミン剤が深く関っていたことは前述した。こうした開発経緯からもわかるように3環系抗うつ薬はどれも抗ヒスタミン作用(神経を鎮静させる作用)が強いのだが、中でもトリブタノールはこの作用が非常に強い。だからこそ抗不安薬的な鎮静作用が期待されて処方されたりもするのだが、これが副作用として裏目に出ると、眠気やダルさとなってしまうのである。

 第3に、男性にとって深刻なのは、トリブタノールのノルアドレナリンα-受容体阻害作用によって生じる低血圧・勃起障害であろう。

 またほかに、ドーパミンD2という受容体を遮断する作用があるのも、気をつけたい点である。

 以上、基本的にトリブタノールについて述べたが、前出のトフラニールアナフラニールもこの薬と同じ3環系抗うつ薬に分類される。つまり、薬効においても副作用においても非常に似通った現れ方をすることは知っておきたい。

 ともあれ、トリプタノールは最強であるだけに、うつ病患者にとってはラストチャンスの薬ともいえる。これでダメだったらうつ以外の病気を疑ったほうがいいかもしれない。実際、}部の医者は、トリプタノールが効くか効かないかでうつ病かそうでないかを判断するという。

 眠いわダルいわ勃たなくなるわとひどい副作用が出たが、効き目もやはり一番たった。飲むと頭がぼや~んとしてきて、今思えば霧の中に意識が佇んでいたような感じだった。抗うつ薬というと元気になるイメージがあるが、この薬は元気を出すというよりうつからくる不安焦燥を強く押さえ込んでいるような感覚がする。

薬ミシュラン』より