ルジオミールを飲んだ感想
たしかに意欲を刺激し、行動的にはしてくれた。が、私の場合、ネガティブな思考のままで意欲だけが刺激されてしまったようで、マイナス方向の意欲=自殺衝動が出てしまった。私のような不安焦燥の強いうつ病患者には、むしろ危険な方向に働く可能性のある薬なのではないかと感じた。
1960年代に3環系抗うつ薬が次々と開発・発売されるにつれて、その長所・短所も少しずつ分かってきた。
まず、どの薬も有効率は6~7割程度だった。またトリプタノールの記事で述べたような副作用がどの薬もひどかった。そして致死量の低さ(少ない分量で自殺できる)も問題とされた。
こうした問題をクリアする安全で効果の高い抗うつ薬の開発が望まれていたのである。
そして72年、トフラニール、アナフラニールで抗うつ薬業界をリードしていたガイギー社は、またしても画期的な抗うつ薬を世に送り出した。今まで患者をさんざん悩ませていた抗コリン作用が極めて弱い4環系抗うつ薬ルジオミールである。もう1つ環の加わったものだ。ただし、字面から連想すると団子のように4つ仲良く環が並んでいるように思うかもしれないが、実際は3環の真ん中にもう1つ環がポツつとくっついている。まったく新しいタイプの薬というより、3環系抗うつ薬の発展型と考えたほうが正確である。
とはいえ、抗うつ薬を世代で分ける場合には、60年代までの3環系抗うつ薬を第-世代、70年代に登場した4環系抗うつ薬を中心とした薬を第2世代と分類することが多いようである。
さて、こうして出てきた第2世代の抗うつ薬の中でも、ルジオミールにはいくつかの目立った特徴があった。
まず第-に、薬効の強さである。実は4環系を中心とした第2世代の抗うつ薬は、一般的に副作用が少ないのと同時に薬効も3環系抗うつ薬に劣る場合が多い。しかしそんな中でルジオミールの薬効には高いのである。このため、3環系抗うつ薬の副作用の強さを嫌う慎重な医師がファーストチョイスとしてルジオミールを処方する例は多い。
第2に、ルジオミールはノルアドレナリンに選択的に作用するという特徴がある。
1960年代後半になると、それまであまりよくわかっていなかった抗うつ薬のメカニズムがわかり始めてきた。それは抗うつ薬はどうも脳内でセロトニンやノルアドレナリンといった脳内物質を見かけ上増やしており、その結果うつが改善されているということだった。
このうちまず注目されたのがノルアドレナリンだった。もう{方のセロトニンの作用がわからなかったので、少なくとも覚醒に関係するなどといった薬理作用が知られていたノルアドレナリンの方の研究が優先されたのである。そしてこのノルアドレナリン作用の研究が最も優れたかたちで結実した商品が、このルジオミールであったといえよう。
その後80年代初頭から第3世代の抗うつ薬が開発され始めた(SSRI、SNR-等)。しかし基本的にこれらの薬も、脳内のセロトニンとノルアドレナリンを増やすことでうつを改善するという戦略をとっていることに変わりはない。この点、ルジオミールは第2世代とはいいながら、第3世代抗うつ薬の薬理作用を一部先取りして開発されていた薬なのである。
SSRIブームの影でなんとなく影が薄くなっているが、もう少しこのルジオミールが注目されてもいいのではないかと思う。
最高血中濃度時間‥6~12時間。
血中濃度半減期‥19~73時間。
『薬ミシュラン』より