デジレル(レスリン)

 

 8年ほど前にかなり期待されて発売された薬である。それまでの3環系、4環系抗うつ薬とはまったく違うタイプという触れ込みで騒がれた点では、今のSSRIに似ている。

 しかし今、デジレルがどれだけ現場で使われているかというと、かなり影が薄い。評判が悪いのである。

 薬の特徴としては抗コリン作用がほとんど無く、鎮静作用にすぐれ、よく眠れるといった点が挙げられる。つまりダウン系の抗うつ薬である。しかしこうしたタイプの抗うつ薬に反応するのはノつつ病患者の中でも不安症状を示す者に限られやすい。さらに、期待されすぎた割にデジレルは従来の抗うつ薬の効果を上回ることができなかった。

 本格的なSSRIが日本でも認可された今となっては、デジレルは今後ますます日陰の道を歩むことになるだろう。

 最高血中濃度時間‥3~4時間。

 血中濃度半減期‥6~7時間。

 服用期間が短かったために抗うつ効果はよくわからないが、とにかく眠たかった。弱いながらもSSR―ということで期待していたのだが、眠すぎて仕事に支障をきたした上にだるさも実感。要は、作用も副作用も従来の抗うつ薬とほぼ同じなのだ。薬理作用上はSSR1にもかかわらず、なぜこれが巷でSSR1と呼ばれないのか身をもって理解した。

 SSRIを「ハッピードラッグ」などと考えて服用する健常者がいるが、これは重大な副作用を招きかねないのでやめておこう。少しややこしいが、以下に理由を述べる。

 そもそも、今ある抗うつ薬のほとんどはモノアミン仮説という仮説をもとに作られている。これは、脳内のセロトニンノルアドレナリンが足りないとうつ状態になるのだから、それを補おうという単純明快な仮説である。ところが、生きている人間の脳内のセロトニン量やノルアドレナリン量をはかることは難しく、脳内で抗うつ薬がどのように作用しているのかは実はよくわかっていない。モノアミン仮説も完全に実証されているわけではないのである。

 だいたいからして、抗うつ薬は服用後数時間で脳内に達し、モノアミンの量を増やしているらしいことがわかっている。だとすれば、数時間後に効き始めてもよさそうなものだ。ところがほとんどの抗うつ帚が実際に効果をもたらすのは2~3週間後である。このタイムラグを説明し、モノアミン仮説を補足するために提唱されたのが、モノアミンを受け取る穴=受容体(レセプター)の作用を問題とするレセプター仮説である。

 このレセプター仮説の根拠は、次のようなものだ。抗うつ薬を長期間服用している患者の脳内では受容体の数が少なくなるという現象が見られるが、』一の現象が現れるのに薬が入ってから2~3週間かかる。つまり、抗うつ薬が効き始める時間(2~3週間)と、患者の脳内の受容体が減少する時間(2~3週間)が一致している、というのがこの説の根拠なのである。

 もし二の有力な仮説に従うならば、抗うつ薬を服用すると脳内の受容体の数が減少する一一とになる。

 副作用が軽いからとプロザックに代表されるSSRIを健康な人間が安易に服用した場合でも、』』の受容体減少という事態が起こると考えられるのだ。健全に機能している脳内の受容体をわざと減少させれば、これはうつの原因にもなりかねない。

 抗うつ薬はモノアミンが欠乏した人を想定して出来た薬であり、SSRIもその例外ではないのである。

薬ミシュラン』より