加齢にともなう精神機能の障害

 

 機能性疾患としては、以下に述べる老年期痴呆のほかに、うつ病、幻覚妄想状態、神経症、人格障害などをあげることができる。加齢とともに脳に何らかの病変が生じることはよく知られているが、脳の老化や精神的老化は個々によりさまざまであり、その個人差はきわめて大きい。身体的状況や身体疾患の影響についても同様のことがいえる。また、これまでの長い人生におけるライフスタイルや、性格傾向、家族・社会状況・経済などが精神疾患の発症や症状とともに、治療への態度に大きくかかわってくる。

 ① うつ病-老年性のうつ病には、各世代に共通する抑うつ感情、精神運動停止、不眠等の症状とともに、不安・焦燥にかりたてられる、身体各部分の違和感・不快感等を訴える、心気妄想・罪責妄想・貧困妄想・被害妄想などの妄想や意識障害が出現するといった特徴が見られる。質のよい休息、薬物療法、精神的サポート、環境調整が治療の柱となる。

 ② 幻想妄想状態-老年期の精神疾患では幻覚、妄想をともなうことが多く、このような状態は加齢に加えて、性、社会的孤立、異常人格、感覚障害、器質性脳病変などさまざまな要因が複雑に絡み合って生ずるとの見解が一般的になっている。治療の中心は抗精神病薬の経口投与であるが、心理的、社会的、職業的支持、感覚障害の矯正も疾患の経過に好影響を及ぼすことが知られている。

 ③ 神経症-老年期は身体的な衰えや死に直面し、またひとりで生きることが難しい状態におかれることから、神経症的な傾向が強くなり、神経症の患者数は60歳以降に著しく増加する。訴えの大半は自律神経症状であり、身体的な異常のために日常生活に支障をきたすことはない。不安や自律神経症状の改善を図るために、薬物治療とあわせて、支持的精神療法が大切である。

④ 人格障害-若い頃の人格の偏りが老年期になって顕在化する人格障害と、高齢になって新たな生活環境や人間関係に適応することを強いられるなかで生じるように見える、他の年代には見られないタイプの人格障害がある。後者は一見異常な行動をとりながら、その現実状況に適応している点で神経症とは異なる。