アモキサン:アッパー系薬物

 

 副作用にさえ目をつぶれば、アッパー系ドラッグはうつ病に効果的である。これはどうしようもない事実だ。

 コカイン、LSD、エクスタシー、アンフェタミンメタンフェタミン、こうした麻薬はすべてかつては臨床で用いられていた薬である。精神分析の祖であるフロイトなどはコカインを魔法の薬と称して次のように述べたこともある。

 「コカインの精神作用は興奮と持続する多幸感であり、健常な人の感覚と変わりなく常習性がない」

 揚げ足取りをするつもりは毛頭ないが、巨人フロイトでさえ臨床デー夕だけに頼っての使用では薬の怖さに気付くのに時間がかかったのである。

 また日本でも、昭和20年代までは覚醒剤が市井の薬局で売られていた。商標名はヒロポンである。まだ抗うつ薬のない時代には、うつ病患者に覚醒剤が処方され、実際に劇的な回復をもたらしていたのだ。ただし急いで付け加えると、これらの患者のほとんどは覚醒剤の副作用による分裂病に陥っていった。

 では現在使用されている抗うつ薬にアッパーな効果がないのかというとそうでもない。業界側のお約束の回答は1健康な人間に抗うつ薬を処方しても、別に変化は見られない1つまりアッパー効果はない、というものである。この回答は、アッパー効果があると言えば悪用される危険性があると考えてのものなのであろう。しかし実際は、抗うつ薬によってうつ病患者が躁転する(アッパーになり過ぎる)という事例はこと欠かない。一部の抗うつ薬はアッパー系なのである。

 アッパー系ドラッグとして抗うつ薬を見た場合、最もヤバそうなのがこのアモキサンだ。この薬は一応3環系抗うつ薬に分類されるのだが、どうもほかの薬と異なった奇妙ともいえる特徴が多いのである。

 まず効き目が速い。通常の抗うつ薬が2~3週間かかってやっと効果が出てくるのに対し、アモキサンは4日程度とされ、中には1~2日でアッパーになる人もいる。抗うつ薬の中ではドーパミンに対する作用が強い薬なので、アッパーになるのは当然といえば当然なのであるが、それにしても実験データでは覚醒剤とは比較にならないくらい弱い作用とされているのだが、本当にそんな程度の弱い効果なのかは少し疑わしいと思う。

 また、アモキサンは3環系抗うつ薬であるのに、抗コリン作用がほとんどない。そして3環系抗うつ薬にありかちな鎮静・眠気もほとんどない。逆に医者からは「夕方の服用は避けるように」などとまさにアッパー薬向きのアドバイスを受けてしまうほどである。

 さらにアモキサンドーパミンD2という受容体を遮断する作用も持っている。この作用によって、プロラクチンという女性ホルモンの分泌がさかんになる。プロラクチンとは出産前の女性に特有のホルモンで、体に脂肪がつき月経が止まり乳房が膨らみ、授乳可能な状態に母体を変化させるホルモンだ。おっぱいが出る副作用に驚く人も多いのだが、実はこの作用は、一部の精神分裂病治療薬に共通する作用なのである。

 以上のような効果からも、異彩を放つ抗うつ薬であることは明らかであろう。

 最高血中濃度時間‥1~1・5時間。

 血中濃度半減期‥8時間。

 眠れなくなるかもしれないので夕方服用はやめたほうがいい。

 ドーパミンD2を遮断する薬としては、ほかにドグマチールがある(P26参照)。厳密には抗うつ薬のカテゴリーには入らないのだが現場ではうつ症状改善に用いられている。もともと胃潰瘍の薬だったために胃薬的な使い方もできる薬だ。

 また、アモキサン以外の抗うつ薬では、アナフラニール、トリブタノールもドーパミンD2遮断作用が強い。

薬ミシュラン』より