「孤独死」の事例

 

 都市化が進んで身内との近住率が低下し、近隣との交流も少なくなったため誰にも看取られずに死亡し、死後何日もたって発見される「孤独死」が増えている。そうした「孤独死」は、緊急時に連絡できる警報設備が整っている近代的な高齢者住宅のなかでも安全機能が作動しなかったために、発見が遅れたケ-スもしばしば起こっている。

 こうした[孤独死]をなくすためになにが必要か、いくつか事例から探ってみたい。

     長野市市営住宅の一室で、70代の女性が病死しているのが発見された。死後、丸1日経っていた。同居している30代の息子は、病気がちで入退院を繰り返していて不在だったため発見が遅れた。おばあさんの生活費は、月々の年金6万円だけ。生前、このおばあさんは、お金を節約するため「テレビもストーブもつけない」と話していたという。

 介護保険制度が発足し、これまで無料で受けていたサービスの利用料の負担が低所得者にも義務づけられた。新制度で「介護度1」と認定されたおばあさんは、生前「デイサービスはお金がかかるので月1回に減らしてほしい」と担当者に話していたという。

 介護保険制度では、さまざまな福祉サービスのメニューが用意されているが、この事例のような悲劇を防ぐためには、経済的な理由でサービスを受けることをためらう高齢者もいることを担当者は把握し、それぞれの高齢者の事情にあったきめ細かな対応をしていくことが必要である。
    

 阪神・淡路大震災被災した高齢者が、仮設住宅で死亡しているのが1か月もたって発見された。新しい居住地に移ったことで、親しい近隣関係が築かれておらず、話し相手もなくひとり暮らしだったために発見が遅れたものである。

 このような孤独死を防ぐために、高齢者に対する「住民の声かけ運動」を推進している町村もある。しかし、高齢者のひとり暮らしのなかには、これまでの価値観を頑固に守ろうとする人も多く、なかなか地域に溶け込めないでいる人も少なくない。そうした人たちが近隣関係に親しみをもつためにどのようなことをすればいいか。高齢者の気質をよく理解して、それぞれに合った対応していくことも必要であろう。

    心臓に持病のある72歳の男性が、部屋で死亡しているのを、訪ねてきた知人が発見した。この住宅では、異常を知らせる警報ブザーがつけられていた。しかし、警報ブザー信号が消防署に届いていたのにもかかわらず、署員が男性は留守のはずだと思い込んでいて、発見が遅れたものである。


    近代的マンションに住むひとり暮らしの76歳の女性が、台所で病死しているのを隣人が発見した。この部屋には、人の動きがなくなると、異常を感知して知らせるセンサーが取り付けられていたが、部屋のカーテンが風に揺れて人が動いているような反応があったため、管理人が異常に気がつかず発見が遅れたものである。