介護保険制度とNPO

 

 広義のNPOには、公益法人社会福祉法人から法人格のない市民活動団体まで幅広く含まれるが、ここではNPO法によって法人格を取得したNPOに注目したい。

 法人格を取得することのメリットは、まず契約や所有の主体になることができるということである。法人格がないと事務所を借りたり電話を引いたりするのも団体の代表者の個人名義でせねばならず、代表者の負担が大きいばかりでなく、代表者の交替が困難となり、組織として発展する基盤が弱い。メリットの第2は、社会的に認知されるという点てある。法人格をもたない任意団体では、社会的な認知を得られにくく、会員や協力者を集めにくい。第3に、寄付金や補助金を受けやすい点が挙げられる。

 介護保険制度施行の前後から、とくに高齢者への介護サービス提供を目的としたNPOのなかに法人格を取得するものが急増しているのは、介護保険の対象となる介護給付の提供者に指定される(指定居宅サービス事業者となる)のは法人に限ることと密接に関連している。すなわち、あらたに設立したNPOは言うまでもないが、今まですでに高齢者に介護サービスを提供してきた市民団体乱介護保険事業に参入すべく、法人格を取得したものが多い。ちなみに、2003年9月までに認証を受けたNPOのうち、主たる活動分野を「保健・医療・福祉の増進を図る活動」としているNPOは7,755法人、58.5%にのぼる。

2 NPOの活躍と高齢者福祉の向上

 1)高齢者福祉を支えるNPO

 介護サービスの代表的なもののひとつである訪問介護などの居宅サービスを行う事業者の(都道府県知事による)指定状況を見るとNPO法人は474件(全指定件数の1.3%)指定されている。今後、介護サービスを提供するNPO法人は増えていくと考えられ、NPOの活発な活動が期待される。

 実際、「介護NPO」は地域と密着したきめ細かなサービスで評判が高い。もともと近所の高齢者への助け合い活動として生まれたNPOが多く、それらのNPO介護保険のサービスを始めても、家事援助のほか、移動や配食サービスなど、従来の有償ボランティア活動も続ける。この保険外の多様なサービスをケアプランに盛り込むのは、他の社会福祉法人や企業には見られないことで、こうした利用者の立場からの発想が、地域一帯からの支持を得て、規模の拡大につながっている。

 また、NPOのなかには、福祉サービスの評価をしたり、サービスの利用者の要望や苦情をサービスの提供者に伝え改善を促すなど、福祉オンブズマンとして活躍しているものも少なくない。こうしてNPOは、自らが福祉サービスの提供者として、あるいはオンブズマンなど福祉サービスの監視者として、サービスの量の確保と質の向上に貢献している。

 2)課題と展望

 NPOの抱える課題は第1に資金である。零細な団体が多く(年間収入総額200万円未満が最も多い)、安定的な収入基盤の確立が重要である。そのためにも、社会福祉法人と同様に、介護サービス事業による収益は非課税とする、NPOへの寄付には税控除を認めるなどの税制優遇措置が不可欠である。また、補助金などの財政的援助も必要であろう。

 第2に、市民の理解と支持がまだ足りないということである。「ボランティアは無償」というイメージが強い日本では、市民団体が事業を手がけることが理解されにくく、また「行政の下請け」になると警戒する声もある。しかし、NPOこそ地域に根ざし、個々の人にあったきめ細かなサービスの提供ができる。 NPOが実績を積むことによって地域の人たちの理解を得、各地で老いを支えるシステムづくりに積極的な役割を果たすことが期待される。