バークリー校

 グラム陰性菌の「ビッグースリー」は、「アシネトバクター、クレブシエラ、シュードモナス」たった。耐性が強まるばかりのこうしたグラム陰性菌は、アメリカ国内外の病院をさんざん苦しめ、これを題材にした研究や講演会をおこなわせ、警告と恐怖をまき散らした。だが、これらの耐性菌がもっとも広範に広かっているとすれば、ほかのグラム陰性菌もまた散発的に発生しており、深い懸念をひき起こ  していた。いや、懸念どころではすまなかった。

 大腸菌は腸の病原菌で、家畜の腸からヒトの腸へとやすやすと移動し、その過程で抗生物質への耐性を周囲の細菌に与えていった。この大腸菌もまた、グラム陰性菌たった。もっとも毒性の強い病原性大腸菌0157・H7は、少なくとも、まだ抗生物質にたいする耐性を獲得していなかった。ところが、アメリカの三都市で女性に重い尿路感染症をひき起こした新しい大腸菌の株については、おなじことはあてはまらなかった。

 二〇〇一年秋、エイミイーマンジズとカリフォルニア大学バークリー校の同僚は、調査の結果、「キャンパスの女子学生二五五人のうち五五人が、感染力を持続する尿路感染症にかかっている」と報告した。尿路感染症には、よくトリメトプリムースルファメトキサソール薬が投与されたが、彼女たちはこの薬に耐性をもつ大腸菌を保菌していた。検査の結果、この感染症の大半がひとつの菌株から発生していることがわかった。つまり、この菌株は最近出現し、急速に蔓延していったことをしめしていた。ところがこの菌株はたちが悪く、数種類の抗生物質に耐性をもち、膀胱への感染能力を増大させる毒性因子が染み込んでいた。マンジズらが、バークリー校の分離株とほかの大学の分離株とを比較しようと、ミシガン州アナーバーにあるミシガン大学の女子学生と、ミネソタ州ミネアポリス大学の女子学生を調べたところ、まったく同一の菌株がミシガン州の三八%、そしてミネソタ州の三九%の分離株から検出された。マンジズはこの結果に驚いた。この菌株は、まだほかの抗生物質には感受性をもっていたが、先行きは不安たった。もしこの菌株があっというまに国じゅうに広がったら性交をじて広がる可能性もあるだろうが、それはまだ立証されていなかった。どんな対策をとれば蔓延を防ぎ、すべての薬剤に耐性をもたせないようにできるのだろう?