成年後見の審判事例

 

 成年後見関係事件(後見開始、補佐開始、補助開始および後見監督人選任事件)のなかから、いくつかの事例について見ていきたい。

     60歳の男性。アルツハイマー病で現在入院中である。本人は、数年前から、もの忘れがひどくなり、自分が応対している相手が誰かわからなくなってしまった。退職して家で過ごしていたが、家族の名前もわからなくなり、日常生活でも、奇怪な行動が目立つようになった。病院に入院しているが回復の見込みはない。

 最近、その男性の父が死亡し、遺産相続が開始された。ところが、その男性の実父にはかなりの借財があった。それで、その妻は、相続放棄のため、後見開始の審判を申し立てた。

 家庭裁判所での審理の結果、妻は家庭裁判所相続放棄の手続きをとることになった。成年後見人は財産に関するすべての行為について代理権をもっている。


     80歳をこえた女性。 3人の子どもは、それぞれ結婚して別居した。夫の死亡後はひとり暮らしだった。最近、徐々に痴呆の症状があらわれるようになり、入院した。しかし、だんだん症状が悪くなり、自分の息子や娘のこともわからなくなっている。

 入院費や日用品の購入の支払いのため、本人の預貯金を払い戻す必要が生じたため、後見開始の審判を申し立てた。近くに住んでこれまで世話をしていた長男と次女が成年後見人に選任された。これは、複数人が後見人に指定されたケースである。

 高齢の知的障害者で、現在特別養護老人ホームに入所している。本人は、現在身寄りはない。本人にはかなりの預貯金があり、その管理をすることが必要である。措置制度から契約制度に変わったため、特別養護老人ホームに入所手続きをするに際し、新しく契約をし直さなければならないが、本人との契約締結が難しいことから、知的障害者福祉法の規定に基づいて、後見開始の申し立てがなされた。家庭裁判所の審理の結果、本人について後見が開始され、司法書士成年後見人に選任された。

 このように本人に身寄りがない場合は、弁護士、または専門家にのケースでは司法書士)が選ばれることになっている。

     80歳代の女性。このところ、米をとがずに炊いてしまったり、ガスの火を消し忘れたりといった失敗が多くみられるようになった。また、訪問販売員から必要のない高額な商品を買ったりするようになった。

 そうしたことから、家族は、家庭裁判所に補助開始の審判の申し立てを行い、また、本人が10万円以上の商品を買うときは同意を必要とする同意権付与の審判の申し立てを行った。

 家庭裁判所の審理を経て、本人について補助が開始され、補助人となった長男に同意権が与えられた。その結果、本人が長男に断りなく10万以上の商品を買ってしまった場合には、長男がその契約を取り消すことができるようになった。

 これは判断能力が不十分であるヶ-スで、一定金額を超えた買い物について取り消すことができる。補助人には、代理権、同意権(取消権)はあるが、無条件ではなく、どのような行為に補助人の同意が必要かを選び、代理権または同意権付与の申し立てを行わなければならない。このヶ-スでは10万円以上の商品の買い物について取り消すことができることになった。