さまざまな居住形態

 

 拡大家族が住む伝統的な居住形態では、若夫婦に主寝室を譲った場合、親夫婦はいわゆる老人室とか隠居部屋などと呼ばれた部屋を居場所とするのが常であった。その後、核家族が当たり前の時代になり、そこに高齢化が進んで登場したのが二世帯住宅である。しかし、スープが冷めない程度の近所に親子が別の家を構える近居あるいは隣居が理想とすれば、二世帯住宅はしょせん妥協の産物であり、玄関、浴室、便所、居間、台所など、どこを共有するか、あるいはどこを分けるかで、さまざまなバリエーションはあるが、結局どこかに無理を抱え込まざるを得ない。二世帯住宅の共同住宅版がペア住宅であるが、これもライフサイクルでペアが永久に続くわけではないところに無理が生じてしまう。

 在宅福祉へのシフトを明確にした厚生労働省ゴールドプランを受けて、国土交通省は長寿社会対応住宅を提唱し、さらに共同住宅として高齢者向けのサービスを用意したシニア住宅を始め、ライフサポートアドバイザーを中心とするケアサービスを用意したシルバーハウジングプロジェクトを1995年以降推し進めてきた。これに重ねて、とくに阪神・淡路大震災を機に、居住者が共同で過ごせる共用空間を各フロアに用意した、コレクティブハウジングと呼ばれる共同住宅も広まりつつある。


2 地域福祉とテリトリアリティ

 どのような居住形態をとるのかということは、どのような居場所とするのかということであり、それは高齢者のテリトリーをどのような形で形成するのかの問題としてとらえられねばならない。それは単に住空間のあり方ではなく、家族や近隣社会における人間関係のおり方でもあるということである。それは主寝室を譲るのか譲らないのかとか、二世帯住宅にするのかしないのか、といった一住戸内に現れるだけでなく、コレクティブハウジングのように共同住宅内にも現れる。

 そしてそれは当然、地域やまちや都市空間にも現れなければならない。この点については果たしてどうであろうか。老人福祉センターとゲートボール場以外にどれだけ高齢者の居場所が確保されているか、自分たちの住んでいるまちを点検してみる必要がある。地域福祉においては、高齢者でも歩いて到達できる距離という圈域、あるいはテリトリアリティという視点から、学区、とくに小学校区という単位も再評価されるべきであろう。ほとんどの都道府県が福祉まちづくり条例をもつ今日、福祉はあらゆる行政の連係なくしては実現が難しくなってきており、いわゆる行政の縦割りというバリアも克服されなければならない大きな課題である。