高齢者の就労の仕方

1 高齢者の就労の仕方

 一律に定年制を定めている企業(常用労働者30人以上)のうち、60歳を定年とする企業がほとんどで、65歳定年はわずか1割程度であるという調査結果がでている。しかしながら、64歳まで男性の7割以上が60歳定年をこえても働いている。

 アメリカやヨーロッパの人々は、老後の生活設計ができ九時点て、自ら選択して職業生活から「引退」していく。 60歳代前半の労働力率(就労している人の割合)は、アメリカの男性55.4%、女性39.1%、ドイツはそれぞれ29.5%、12.0%である。両国とも、公的年金の支給開始年齢は65歳なので、年金を受けとれるようになる前にやめていく人が相当な数にのぼっている。

 高齢者の就労理由は、健康や生きがいのためといわれるが、基本的には高齢者にとっても賃金を獲得する手段としての就労には変わりがない。高齢になっても就労理由が「経済的」というのでは、就労者の福祉という側面からも多くの点て問題がある。

 公的年金制度が充足していないことや、雇用労働者として能力を磨く環境が整理されていないことにより、老後の経済生活が不安定な問題をはらんでいる。

2 高齢者の就労保障にむけて

 高齢者の雇用問題は、高度経済成長にはいる昭和40年代から徐々に取りあげられはじめている。現在のように、「老後生活」をどのようにおくるかという総合的視点ではなく、失業防止策の強化・拡充の一環としての対策が講じられたものである。

 日本の雇用は、年功序列的な雇用、賃金慣行と終身雇用とを前提としたものである。したがって、経済の低成長時代には、とりわけ高齢者の雇用がきびしい状況に追いこまれ、定年が間近い人から希望退職をつのるという事態にもなっている。定年制、定年後の大幅な賃金低下、再雇用・勤務延長制度(あるいはその慣行)の存在など、いわゆる日本的雇用慣行を、新しい制度がどのように対応しているかについて検討する視点が重要となる。

 「高齢社会対策大綱」では、①65歳までの継続雇用を推進すること、②多様な形態による雇用・就業機会の確保(再雇用の促進、高齢期における裁量的な雇用機会の提供)を図ることなどの施策を実施するとしている。

 また、2000(平成12)年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下「高年齢者雇用安定法」という)が改正された。これにより、同法は、①定年の引き上げ、②継続雇用の推進、③再就職の促進、④定年退職後などにおける就業の場の確保、について定めている。

3 エイジレス社会の実現

 高齢者問題の根本的な解決策として、“エイジレス社会の実現”が言われる。まさに、高齢社会に即した発想として、大いにその開発が望まれる。

 エイジレス社会の実現は、制約のない自由で適正な労働市場の中でしかあり得ない。言い方を変えれば、制約のない自由で適正な労働市場であれば、「エイジ(歳)」というものは意味をもたないということである。もっといえば、「エイジ(歳)」はマイナス面での要素とは考えにくく、長年の経験から来るコミュニケーション能力の高さ、必要とする報酬水準の優位性などプラスの面の方が大きいのではないだろうか。

 高齢者が生き生きと就業するためには、その人の“力”がどうしてもほしい、当社にぜひ残ってほしい、是非当社にきて欲しい、という状況が必要である。その状況を醸し出すための方策を考え、実施することが、高齢者問題の解決策としては重要であろう。

 そして、解決策のキーワードとなるのが“キャリア”である。その人がその仕事を遂行できるかどうかの判断は、決して年齢ではなく、その仕事を遂行できるキャリアがあるかどうかのはずである。

 高齢者の雇用問題の根本的な解決策は、「エイジ(歳)」を意識しなくてもよい世界をつくることだと考える。そのために必要なことは、どこでも通用するキャリアを身につけることと、キャリアを適正に評価したうえで個人と企業の双方のニーズによって成立する純粋な労働市場を構築することではないだろうか。この二つは、日本の会社がグローバルな企業競争の中で生き残るためにも必要なことである。