〈バクトロバン〉の臨床試験

 ペプチドは、第一相試験をらくらくと通った。健康なヒトの皮膚に塗布したところ、害がなかったのである。第二相試験では、実際に膿疱疹にかかっている四五人の患者に効果があった。一方、〈バクトロバン〉の臨床試験では、偽薬が使われていた。ふつうの石けん水である。マゲイニン社はその手順を真似た。だが、一九九三年半ばに第三相試験の結果がでたとき、ザスロフは呆然とした。ペプチドは〈バクトロバン〉と同程度の結果をだしたが、どちらの製品も石けん水と同様の効果しかあげることができなかったのだ! では、そもそも、どうして〈バクトロバン〉は承認を勝ち得たのだろう? ザスロフにはついぞわかることがなかった。FDAはただ、「ペプチドは臨床試験に失敗した」と発表しただけだった。一夜にして、マゲイニン社の株価は一ハドルから三ドルに急落した。

 マゲイニン社倒産の危機を迎えたザスロフは、まるでマジックで帽子からウサギを取りだすように、必死になって奇策を打ちだした。いや、正確に言えば、ツノザメを取りだしたのである。