遺伝子の翻訳とタンパク質合成

 

 タンパク質の合成は転写されたmRNAに大小2つのサブユニットから構成されるリボソームと呼ばれる巨大なタンパク質・RNA複合体が結合することにより開始する.この過程全体は翻訳(translation)と呼ばれる.リボソームが合体して生じたP部位,A部位と呼ばれる2つの空隙のうち,P部位にホルミルメチオニンtRNAが入り, mRNAのAUG配列に結合することから翻訳が始まる.つぎに二番目のコドン(図ではGAA)に対応するアミノ酸を運ぶアミノアシルtRNA・延長因子複合体がA部位に入る.この2つのアミノ酸はペプチジルトランスフェラーゼという酵素により連結される.つづいてトランスロカーゼというタンパク質がはたらいてmRNAを3塩基分移動させてP部位にあったtRNAを放出する.このとき,A部位にあったtRNAはP部位に移動する.さらに3番目のアミノアシルtRNAが空になったA部位に入り,新たなペプチド延長反応を継続してゆく.やがて終止コドンが現れると,アミノアシルtRNAのかわりに解離因子がA部位に入って延長反応が阻止され,新生タンパク質がリボソームから遊離される.翻訳過程の反応はすみやかに進行し,大腸菌では1秒間に18個ものアミノ酸が次々と結合されて新生タンパク質が合成される.ところで,カビなどが生産する抗生物質のうちの多くは翻訳の諸過程を阻害する.ぽとんどの抗生物質は細菌などの原核生物の翻訳系には有毒であるが真核生物の翻訳系には影響を与えないので選択的な細菌毒として有用なのである.