遺伝子の複製

 

 DNAは片方の鎖を鋳型として複製を合成できるため,同じ塩基配列を持った子孫DNAが次々と生まれてゆく.これがメンデルが洞察した遺伝子現象の本質である. DNA複製にはDNAポリメラーゼ(polymerase)と呼ばれる酵素の助けが必要である.DNAポリメラーゼはデオキシヌクレオシド三リン酸の存在下で鋳型DNAのコピーを細菌では毎秒1000塩基,ヒトで毎秒20~100塩基という驚くべきスピードで合成できる能力を有している.このように優れた能力を持つDNAポリメラーゼもDNA合成反応はy→y方向にしか進められない.そのためDNA複製の一方の鎖(リーディング鎖)は一気に合成を進めるが,他方の鎖(ラギング鎖)の合成は約1000~2000ヌクレオチドずつとびとびにしか進めない.

 

 DNA複製はDNA複製起点と呼ばれる特別な塩基配列を持つDNA頸域から開始される.このときヘリガーゼはDNA鎖を解きほぐすはたらきをする.複製が進んでゆくにつれて複製フォークと呼ばれる分岐点を境にしか複製のパズル(単鎖DNA構造を持つ領域)力l左右に広がってゆく.リーディング鎖DNAは一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)の手助けによりDNAポリメラーゼⅢによって一気に複製される.ラギンブ鎖の複製においては,まずプライマーゼによって短いRNA断片が合成され, DNAポリメラーゼⅢによるDNA合成反応のガイド役(プライマー)として使われる.このRNAプライマーは,ラギンダ鎖合成の仕組みを解明した岡崎令治博士の業績をたたえて岡崎フラグメントと呼ばれている.複製フォークでは数多くの酵素の複合体であるプライモソーム(primosome)が複製を促進してゆき, DNA鎖に蓄積されたねじれはシャイレースによってほどかれてゆく.続いてDNAポリメラーゼIはプライマーRNAを除去しながらギャップをDNA鎖で置き換えてゆく.こうして合成された短いDNA鎖はDNAリガーゼによって次々と接続されるため,巨視的には3'→yの方向に合成が進んでいるようにみえる.