2015-04-12から1日間の記事一覧

 ヒトゲノムプロジェクトのもたらす夢

さまざまな病気において遺伝子の変異が重要な役割を果たしていることがわかってからは1つ1つの病患の原因遺伝子をクローニングするために莫大な費用と労力がかけられてきた.その件数が増えるにつれて,前もって組織的にヒトの全ゲノムの塩基配列を決定し…

 ヒトゲノムの遺伝子地図

ヒトのゲノムマッピングの歴史は意外と古く, 1911年に米国コロンビア大学のモーガン研究室のウィルソン(E.B.Wilson)が特徴のある遺伝パターンの解析結果から類推して色盲の遺伝子がX染色体上にあると提唱したときにまで遡ることができる.X染色体は性に依…

遺伝子治療

遺伝性病患をはじめとして多くの病患で遺伝子の変異が病因であることがわかってくると,外部から正常な遺伝子を患者に導入して発現させることで根本的な治療をしようという遺伝子治療(gene therapy)の考え方が生まれてきた.遺伝子治療は遺伝性病患のみでな…

 遺伝子診断のもたらす諸問題

遺伝子診断の技術が進展してゆくにつれて,成人や小児だけでなく胎児までが将来どのような病気にかかりやすいかがわかるようになってきた.さらには誰を結婚相手に選ぶかによって,将来生まれてくるであろう子供が中年以降にかかるであろう病気の予測をつけ…

ゲノムの刷り込み現象

メンデルの遺伝の法則においては両親から遺伝する1対の対立遺伝子のはたらきは等価であるという暗黙の前提かおる.それはたいていの場合は正しいが,例外はある.すなわち,父母由来の遺伝子のうちのある領域が受精以前に修飾されることで区別され,子のゲ…

 DNA指紋による遺伝子鑑定

遺伝子診断の試みを多くのヒトを対象に行っている過程で,個々人の染色体DNAの塩基配列には予想以上に個人差が大きいことがわかってきた.とくに反復配列の反復数の個人間の多様性が検出しやすい特徴として注目を浴びてきた.これらの個人差を検出すると…

遺伝子変異の種類と遺伝子診断

一般に遺伝性疾患の原因となる遺伝子の変異には1つの塩基が変化する点突然変異(point mutation)と,ある遺伝子の領域がごっそりと欠失(deletion),挿入(insertion),増幅(amplification)などにより変化する変異に大別される.点突然変異にはコードするタンパ…

病気の原因としての遺伝性素因と環境因子

どのような病気の原因も,つきつめて考えれば遺伝性素因と環境因子との2つに分けられる.すなわち,病気とはある遺伝性素因に環境因子が作用して発症する不健康な状態といえる.当然ながら病気によって2つの要因の寄与は異なる.たとえば小児において発症す…

狂牛病の病原体はプリオンか?

1982年,プルシナー(S. B. Prusiner)らはスクレイピーを発症したヒツジの脳の抽出液をマウスの脳に注射するだけでスクレイピーとよく似た症状が出ることを発見した.この抽出液を調べてみると多量の奇妙なタンパク質が含まれていたので,彼らはこれをプリオ…

 ヒトにもある狂牛病  

狂牛病はウシが気が触れたかのようによだれを垂らしてふらふらし,しだいに歩けなくなって死んでゆくという気味の悪い伝染病である.感染して死亡したウシの脳にはスポンジ状の孔が多数生じているところから,正式にはウシ海綿状脳症(BSE:bovine spongif…

細胞周期のチェックポイントとがん

それではなぜ,がん細胞において染色体がかくも不安定になっているのであろうか.その謎を解く鍵となるヒントが, 1989年,ハートウェル(Hartwell)によってはじめて提唱された細胞周期のチェックポイント(checkpoint)という概念に隠されている.チェックポイ…

 がん抑制遺伝子

一方,細胞の増殖を抑制するタンパク質をコードする遺伝子が異常を起こすことでがん化させるタイプのがん遺伝子もみつかってきた.それらはがん抑制遺伝子と総称される正常細胞において,遺伝的にあるいは環境の作用によってがん抑制遺伝子が欠損すると,増…