病気の原因としての遺伝性素因と環境因子

 

 どのような病気の原因も,つきつめて考えれば遺伝性素因と環境因子との2つに分けられる.すなわち,病気とはある遺伝性素因に環境因子が作用して発症する不健康な状態といえる.当然ながら病気によって2つの要因の寄与は異なる.たとえば小児において発症する遺伝性病患の多くは環境因子にはほとんど左右されない遺伝性素因の寄与が100%に近い病気である.それでも食事療法などで発症を抑えることのできるフェニルケトン尿症などの場合は環境因子の寄与も無視できない.逆に,感染症やけがの後遺症として起こる病気は環境因子の寄与が大きい病患である.しかし,ウイルスや細菌に対する抵抗性やけがの治りやすさという免疫力は明らかに体質という遺伝性素因によって決まってくる.その意味で,遺伝性病患に限らず,一般の病気においてさえ遺伝性素因の果たす役割が幅広い医療分野において強く認識されるようになってきた.とくに遺伝性素因を理解することによって病気の治療のみでなく予防にも役立つのではないかという考えが生まれてからは遺伝子診断の重要性を多くの人が認めるようになってきたのである.

 

 遺伝子診断とはDNA(まれにはRNA)の塩基配列を検査することにより,その病気に罹患しているかどうかを診断することである.生まれる前の胎児の状態においてさえ遺伝子診断によると正確に発病を予見できる.この点は他の診断法にはない大きな特徴である.一般に多くの遺伝子変異は劣性であるため,保因者(carrier)と呼ばれる,片方の染色体の遺伝子のみが変異を起こしている人は発病しない.保因者同士が結婚した場合にのみメンデルの遺伝の法則に従って,その両親から生まれてくる子供のうち4分の工の確率で両方の染色体の遺伝子がともに変異した子供が産まれ発病するのである.