染色体の中に収納されている遺伝子

 

  DNAは細胞核の中にある染色体に存在する.染色体はDNAのみでなく数多くのタンパク質で構成される巨大な複合体である.ヒトの1つの細胞核に存在するDNAは全染色体を合わせると実際どのくらいの長さになるのであろうか.まずヒトのDNAは約30億塩基対からなることを思い起こそう.ここで1塩基対間の距離は0.34 nm(1nmは10億分の1mを意味する)なので,両方をかけ算する(30億×0.34 nm)とおよそ1mの長さにも達することを意味する.DNA二重らせんの直径が2nmであることは,まるで細いクモの糸が果てしなく続いてゆくような形状をとっていることが想像される.その形を実感するためにDNAを直径がおよそ0.2 mmのクモの糸に置き換えて考えてみよう.このクモの糸がDNAとすると,その長さは実に100 km にも達するのである.ヒトの場合は実際にはDNAはひとつづきにはなっておらず,23対の染色体(22対の常染色体と1対の性染色体)に分けて収納されている.

 

 ほかの生物種でも全DNAのサイズ(これをゲノムサイズと呼ぶ)は同様に大きい.大腸菌はヒトの千分の1程度しかないが,植物のユリなどは逆にヒトと比べて1000倍ものゲノムサイズを持つ.染色体の数は生物種によって大きく異なるが,その数にはなんらの規則性も見いだされていない.近縁の種でさえ染色体の数が大きく異なる場合も知られている.たとえば酵母菌のうち出芽酵母は17個の染色体を持つが,分裂酵母は4個しか持たないという具合である.

 

 ところで染色体はおよそ幅1000 nm,長さがその数倍のサイズを持つ太い棒のような格好をしており,ヒトの場合は23対の染色体がおのおの異なったサイズと形状を持っている.この事実は細長いDNAが何段階かに分かれて規則正しく,合計およそ数千倍の縮小率で折り畳まって収納されていることを示している.細胞分裂のさいにはわずか10時間くらいの短い間に約30億塩基対のDNA力1解きほぐされ,合成されて2倍となり,もう一度折り畳まれて2つの娘細胞に正確に分配されるという離れ業を毎回行っているのである.染色体は少し解きほぐすと染色小粒(クロモメア)と呼ばれる構造がみえる状態になる.それをもう少しくわしく観察すると,直径30nmのソレノイド(solenoid)と呼ばれる繊維状の構造体から構成されていることがわかる.ソレノイドはヌクレオソーム(nucleosome)と呼ばれる数珠玉構造体6個を]_単位にコイル状に巻きついた形状をしている.ヌクレオソームは4種類のヒストン(histone)・と呼ばれる塩皆陸タンパク質(H2A, H2B, H3, H4と略称する)が2分子ずつ合計8個結合しか複合体(ヌクレオソームコア)に約140塩基対のDNA二重らせんが1.75回転して巻きついたもので,2つのヌクレオソーム間の連結部分の長さは平均60塩基対である.