原著論文の書き方:研究機関名、受理年月日、本文について

 

 研究は発表してはじめて完結する.研究者は,自分の研究がまとまり,学界に貢献すると信じられる新しい,ゆるぎない結果が得られたら,時宜を失せずこれを論文として発表すべきである.

 私自身,過去をふりかえると,書くべきときに書かなかったために,ついに論文にできなかった研究がいくつかある.年輩の研究者はみな,多かれ少なかれそういう苦い思い出を持っているのではなかろうか.

 論文は読まれてはじめて役に立つ.ひとりよがりでわからない論文,悪文で読みにくい論文は読んでもらえない.簡潔で,しかもスラスラと読者の頭にはいるように書くことは決して容易でない.著者は,準備・執筆・再検討・仕上げの各段階に十分に時間をかけ,努力をはらわなければならない.書き進むたびに「読者の身になって自分の書いたものを見直す」心掛けが肝要だ.

 原稿を書きはじめる前に,十分な時間、少なくとも数週間を準備についやすべきである.まず,論文に盛りこむ必要のある情報は何と何かを,一つ一つを秤にかけるつもりで洗いだす.次に,読者がどれだけの予備知識をもっているかを予想した上で,書くべきことをどんな順序で にならべれば論理的にいちばんよく筋が通るか,読者にスラスラと理解してもらえるかを検討する.準備段階のあいだに図や表を準備することを忘れないように(印刷用原稿のようにきちんとしたものである必要はない. .

 原著論文はふつう,表題,著者名,研究機関名,受理年月日,著者抄録,本文(図,写真,表などをふくむ),謝辞(もしあれば),付録(=appendix.もしあれば),引用文献欄の順に印刷される.これらを書く形式-スタイル一については,それぞれの雑誌の投稿規定を入手して,注意ぶかくこれに従うべきである.投稿規定にとどまらず,完備した投稿の手引あるいはスタイル・マニュアルが準備されている場合もある(たとえば文献50, 51, 58).

 表題には「何を」研究したかを具体的に示す.また,「どんな方法で」研究したかも示してほしい.上記の「何」の言い表わし方が論文の内容にピタリと限定されているほどいい表題である.抽象的・一般的すぎる表題は好ましくない.

 表題が短いことはもちろん望ましいが,適切に内容を示すことが第一の要件だ.最近では表題は〈最も短い抄録〉の役を果たすべきだという考えが強くなり、これに伴って長めの表題が多くなってきた.

 研究機関名としては,その研究をおこなった研究機関名を書く.著者の現所属機関がこれと異なる場合には,脚注として現所属機関を示す.研究機関名には,郵便が届く程度にくわしくアドレスを書く必要がある.

 受理年月日の欄には,原稿が到着した日付を雑誌の編集部で記入する.ただし,その後,閲読者の注意,または著者自身の発意によって,本質に触れる改訂がおこなわれた場合には,改訂稿の到着した日付を書き加える.万一,ほかの研究者がほとんど同時に同様の結果を発表して,どちらの発見が早かったかという紛争が起こった場合には,受理年月日(改訂のあった場合には改訂稿の受理年月日)によって優先順位がきまる.

 本文は,とくに短い論文は別として,いくつかの節に分け,必要があれば節のなかをさらに小節に分けて書く.書出しの部分には必ず,「その論文では何を問題にするか,どこに目標を置いてどんな方法で研究したか」を示す,少なくとも1~2パラグラフの序論がなければならない.次に本論にはいって,研究の具体的な手段・方法を述べ,それによってどんな結果がえられたかをしるす;最後に,その結果を従来の研究結果と比較して検討し,自分はそれについてどう考えるか,何を結論するかを書くーというのが原著論文の標準的な構成である.さらにその後に結論(conclusion)またはまとめ(summary)をつけることもあるが,これは特に長い論文の場合にかぎる.



『理科系の作文技術』木下是雄