医者という人種には勘違いしている人間が多い

 

 だいたい医者といっても国家資格をひとつ持っているというだけのことであり、その意味では車の免許を持っているのとなんら変わりはない。車の免許と違うのは、テクニカルな度合いがより高い専門職で、国家的庇護の元で高収入が得られる特権階級であるというにすぎない。だからペーパードライバーがいるようにヤブ医者もいて当然なのであり、実際それを証明する事件も起きている。93年9月、抗ウイルス剤ソリブジンとフルオロウラシル(FU)系抗ガン剤の併用によって、わずか1ヵ月の間に15人もの死者が出た。しかし実はソリブジンの添付文書にはちゃんとFU系抗ガン剤の併用は避けるようにと記述されている。

 この事件について、93年12月29日に朝日新聞日本医師会の内部文書をスクープした。その文書には「事故の責任はあげて製薬会社が負うべき」とあり、今回の事件では医師に迷惑のかがらぬよう、また後々医師に対して訴訟など起こされないよう製薬会社が全部尻拭いすることとする旨が書いてあり、これについて製薬会社と日本医師会との間で合意がなされたという。

 要は、薬の注意書きも読めないようなレベルの馬鹿な医者がいて、その不注意で死人が出ても日本最強の圧力団体である日本医師会の代紋をちらつかせれば知らぬ存ぜずで済んでしまうということだ。旧ソ連のノーメンクラツ土フ並の保身には背筋が凍り付く。

 この事件にはまだ続きがある。ソリブジン発売から約1ヵ月後、副作用死の報告を受けた厚生省とメーカーは緊急医療情報として各病院に通達を出した。にもかかわらず、その後も死者が出ているのである。そしてこの医師もなんら責任を負うことはなかった。

 要するに論文も読めないような馬鹿が、あるいは最低限の義務である文書を読む気もないような怠け者が医師をしていても、何ら罰せられず責任も問われずにいるということである。

 さらに、この事件が進行する一方で、製造・販売元の日本商事、エーザイおよび関係した医師は、副作用死が公になって株価が急落するのを見越して売り抜けるというインサイダー取引までしている。その数200人。

 医療はここまで荒廃しているのだ。

 もう1つ、馬鹿な医師の例を薬害エイズ事件でみてみよう。この事件では前帝京大学副学長安部英が逮捕起訴された。しかし安部以外に、非加熱製剤を平然と投与していた医師たちの馬鹿さ加減も当然責められるべきであろう。血液製剤とは数千人から集めた血漿をまとめて作るものである。数千人の輸血者の中にI人のB型肝炎キャリアがいれば全部の製剤がウイルスで汚染されることなど高校程度の生物を習った者ならば誰でもわかる。実際、一部の医師は薬害エイズ事件が表面化する前から非加熱製剤の危険性を察し使用しなかった。逮捕された安部だけでなく、馬鹿な医者がいたからこそ、戦後最悪の薬害事件が起こってしまったのだ。

 さらにこの馬鹿な医者たちはエイズが感染する疫病であることを理解してなかったようで、告知を行なわなかった。そのため患者の家族への2次感染を引き起こしてしまったのだ。こんなことは公衆衛生の基礎知識である。

 製薬会社にも問題はある。まずアメリカの血液製剤の製造元は自国で販売が規制された血液製剤の在庫を平気で日本に輸出している。販売元のミドリ十字のMR(医療情報担当者)も、それ以外の専門家も、こうした事情を知っていながら平気で売っていた。

 これが日本の医療の現状だ。これからも薬害は起こる。医療ミスも起こり続ける。災禍はいつあなたに降りかかるかわからない。

薬ミシュラン』より