ポリミキシン

 一年後には、病院のほぼすべてのクレブシエラに、すべてのセフアロスポリン系抗生物質の投与で効果が見られるようになり、もっと重要なことに、イミペネムでも効果が見られるようになった。だが残念ながら、この作戦はいわばソーセージ型の風船の片端を押しつぶすことになり、風船の反対側では新たな問題が生じた。たしかにイミベネムを投与し、セフタジジムはいっさい使わずにいたところ、クレブシエラとアシネトバクターは治療できるようになった。だが同時に、この作戦により、シュードモナス属緑膿菌のイミペネム耐性が激増したのである。

 ある意味で、もっとも一般的な耐性グラム陰性菌「ビッグースリー」のなかでも、シュードモナスは最悪たった。溶剤に水を用いた生成物が、やけどを負った患者の皮膚移植の軟膏に使われていたが、やけどの外科医は、シュードモナスが皮膚に感染し、果物のような甘酸っぱいにおいが漂い、肌が青緑色を帯びるとおそれおののいた。シュードモナスは、肺炎にかかる原因になるし、熱傷治療病室の内側でも外側でも、肺移植の合併症、そして嚢胞性線維症のおもな死因となった。尿路感染症をひき起こし、敗血症を誘発する場合もあった。なにより厄介なのが、たいていクレブシェラやアシネトバクターよりもすばやく新しい薬に対して耐性を獲得することだった。

 シュードモナス菌株の多くがイミペネム耐性を獲得するが、幸い、その耐性は非常に直接的であるため、まだセフアロスポリンには感受性があった。レハイルは、ここでもまた耐性の引き金を引くことがないよう、注意深くセフアロスポリンを投与しなければならなかった。たいてい、うまくいった。彼が冷や汗をかいたのは、ごく例外的な場合だった。イミペネムとセフアロスポリンに耐性をもつシュードモナスである。レハイルが頼ることができるのは、ポリミキシンという「悪夢のような薬」だけという場合もあった。

 ポリミキシンは、CDCのフレッド・テノヅアーがはっきりと言ったように、「すさまじい」薬たった。ポリミキシンは、多くの病原菌を殺すが、ヒトもまた殺してしまうのである。ポリミキシンを投与された患者の二五%が「腎不全」になった。ほかの多くの患者は、腎臓に潰瘍ができた。当然のことながら、ポリミキシンは二十年以上、最後の切り札として投与される薬であり、めったに使われなかったので、大半の医師はこの薬を時代遅れと見なしていた。だが多剤耐性シュードモナスの菌株のなかには、レハイルが見たところ、ポリミキシンが残された唯一の手段であるものがあった。レハイルはその毒性をよく承知しつつ、ポリミキシンを注意深く処方し、最高の結果を望んだ。概して、しばらくのあいだはそれはシュードモナスを食い止めた。