マニュアルに出てくる技術用語は,なぜむずかしいのか

 コンピュータ関連のマニュアルなどで,初心者が一番困るのは,難解な技術用語である.突然,聞いたこともない言葉が出てくる.もうお手上げである.しかし,技術用語を使わなければ,解説ができない.どう対応するか,読み手の困惑は,書き手の悩みの種でもある.

 ワープロ,パソコンのマニュアルに出てくる技術用語は,なぜむずかしいのか,その原因を探ると,解決策が見えてくる.筆者が最初にワープロを使いはじめたのは,1978年である.あの頃の機械は,セットで大型机に載りきれないくらい大きかった.

 一方,機能はといえば,現在の機械にくらべ,はるかに劣っていた.そして,金額も250万円を超えた.操作も現在とは比較にならないくらい困難をきわめた.とても素人が使えるような代物ではなかった.メーカーもとうぜんのことながら,印刷会社,出版会社などの“プロ”を対象に製品を開発した.

 パソコンにも同じことがいえる.開発当初の製品のコンセプトは,専門家,マニア向けであった.現在にみるような,各家庭に1台ずつパソコンを,などというキャッチフレーズは,夢のまた夢に等しかった.

 したがって,製品の開発にともなって制作されるマニュアル類も,専門家,マニアを対象につくられた.専門用語が羅列されていても,それを読みこなすのが,専門家であり,マニアなんだ,という異様な雰囲気のなかで,パソコン,ワープロが使われたのである.

 以来十数年のあいだ,メーカーは,ユーザーの裾野の拡大を視野に,それにともなった製品の改良に総力を傾注した.そして,いま,われわれが手に触れるすばらしい製品が世に送り出されたのである.しかし,マニュアルではどうだろうか.たしかに,企業の努力,そしてマニュアル制作スタッフの努力は,並大抵なものではなか
った.その業務を経験しているので,自信をもって言える.

 だが,言葉は永遠である.一度生まれた技術用語をたびたび変えることができない.どうしても,従来の用語を踏襲することになる.こんなところに,技術用語がむずかしい,とユーザーから指摘を受ける原因の一部が濳んでいる.とを再検討しないことには,問題は永久に解決しないように思われる.

 どのような状況で,どんな技術用語を使うかは,読み手が誰であるかによって,決めるべきである.書き手はつねに,読み手を意識して書くことを忘れてはならない.そして,もう1つ大切なことは,はじめて出てくる技術用語には,その時点で解説をつけることである.大切な用語は,ことあるごとに,必要におうじた説明をくりかえすことも忘れてはならない.

 また,表記には,その業界で制定した名称を採用すべきである.勝手な造語は慎むべきだ.新製品などのばあいは,他社製品との差別化を考慮して,新語を採用することが多い.その際には,社内で,十分に検討を重ねた上で,用語を決定することが望ましい.