治験-データ捏造の問題

 

 国内で薬を製造販売するためには厚労省の認可を受ける必要がある。認可申請にあたって提出されるのが、どの程度その薬が有効かを示す治験データである。

 たとえば抗不安薬においては、日本で認可されているもののうちの半数が国産薬である。外国産薬に頼りっぱなしの日本では珍しいことなのだが、実は喜んでばかりもいられない。これらの国産抗不安薬のうち、デパスとリーゼ以外は世界市場ではほとんど見向きもされていないのである。なぜかといえば、要は効かないからである。

 実際、これらの薬の治験データを見るとおかしなことに気付く。たいていは過去に出た抗不安薬と比べてわずかだけ優位なデータが得られたことになっているのだ。本当に優れた製品ならデータも画期的な数値を示すはずなのだが、新製品発売のためにとりあえずデータをそろえてみましたという程度の差なのである。

 そしてデータをそろえる立場にいる医者からして、どうも信用できないのだ。そう思わせる事件がいくつも起きている。

 94年に発覚しか日本グラクソの血圧降下剤ラシジピンの治験をめぐる贈収賄事件など典型的な例である。この治験では同意書が捏造され、患者に説明もないまま実験が行なわれ、頭痛や麻痺といった重大な副作用の報告がありながら国立香川医科大附属病院の医師は無視していた。中には副作用が出たらデータを破棄することを条件にメーカーから金をもらう医師(国立習志野病院勤務)までいたことが後ほど明らかになった。治験データを改竄した医師は逮捕起訴されたが、逮捕の理由はデータ改竄ではなく収賄である。

 95年、参天製薬の血圧降下剤SD-3211の治験においても患者の同意書がないままで治験が行なわれた。のみならず、虚偽の報告書が作成されている。この医師(国立熊本大学附属病院勤務)も収賄容疑で逮捕されている。

 96年5月には杏林製薬の抗かいよう薬KU-1257をめぐり茅ヶ崎市立病院の医師が収賄容疑で逮捕されている。この医師は4年間に22社から600症例に及ぶ治験を行なっていたが、この数は異常に多いものであり、厚生省はデータの信頼性に対して疑問を投げかけている。

 目の前の金欲しさに平気でデータを捏造する医者は確実にいるのである。

薬ミシュラン』より